下にいくほど新しくなっています

2 july(wed)
6
cosmic turtle moon

 今日のネアリカンは7回目のジュンジュンと4回目のタケちゃんである。
 今日の朝3時過ぎまでラーメンズの「雀」をみんなで見ていたので、睡眠不足だ。眠気を吹き飛ばそうと「しりとり歌合戦」をやりながら貼った。

J  小さいときは神様がいて〜目に映るすべてのものがメッセージ(ユーミン)
 「じ 」
T  ジーザス・クライスト・スーパースター(70年代ミュージカル)
 「た」
A たんたんタヌキの〜ぶーらぶら(放送禁止歌)
 「ら」
J ラブ・ミー・テンダー、ラブ・ミー・スイート(プレスリー)
 「と」

T トイレがつまったクラシアンです、500,500(ヒップホップ)
 「く」
A 苦しくったて、悲しくったって、コートの中では平気なの(アニメ主題歌)
 「の」
J  NOVA !(これ歌かよ)
 「ば」
T バカにしないでよ、そっちのせいよ。今の言葉プレイバック(山口百恵)
 「く」
A  クラムボンが笑ったよ(宮沢賢治)
「それ詩じゃん」
A クララが……クララが立ってる(アルプスの少女俳人)
「それセリフじゃん」
A 空即是色、受想行識(般若心経)
「それお経じゃん」
A くまっちゃうなーデートに誘われて(熊本リンダ)
「もう失格」

 カラオケとかいかないし、流行歌をまったく知らないオレって世間知らずなんだなあ。
 ユーミンが「目に映るすべてのものがメッセージ」なんてすごい歌詞書いてるのに気づかなかった。ユーミンが97年に出したアルバム「ユスアの波」は、マヤ暦の研究者ホゼ・アグエイアスの著作「ユスアのサーファー」(「時空のサーファー」小学館)からとっている。
 マヤの正月にあたる7月25、26日はオレも富士山に登る。
 マヤのカレンダー「13の月の暦」を使いはじめてもう7年くらいたつが、そろそろ来年のカレンダーを買わなきゃ。
 ちなみに長島茂雄氏の妻、亜紀子さんも同じカレンダーを使っているという。
 これって微妙?

4 july(fri)
8
cosmic turtle moon

 最近日記がおろそかになっているが、オレは今メキシコにいる。
 旅行記でも小説でもはまりこんでしまうと、その舞台にいっちゃうわけ。
 昨日は小説「ケチャップ」の舞台であるニューヨークにいた。
 8月に出るはずだった「ケチャップ」は、8,9月に新刊が多いという講談社的戦略もあり、読書の秋10月5日発売となった。
 1冊300ページの本を書くにあたって、最初の50ページくらいがいちばんつらい。
 「はじめ人間ギャートルズ(原始人マンガ)」のように直径2メートルもある石の5円玉を転がしていかねばならない。
 摩擦による負荷もあるし、上り坂だ。
 100ページを越えたあたりで下りにはいる。
 いっきに250ページくらいまでいったところで、急な上りが待っている。
 最後に力を振り絞って押すと、350ページくらい転がっていってしまう。
 それをまた「ああでもない、こうでもない」と削りまくって完成するのだ。
 メキシコ旅行記「神の肉テオナナカトル」は、最初の坂を越えたくらい。
 やっとこの作品の自分に対する重要さがわかりかけてきた。
  ネアリカをつくりはじめてから美術と文学のはざまに引き裂かれてきたが、絵も言葉もお互いが育み合うということが実感としてわかりつつある。
 でもわからない。
 作品が完成してみるまでは。
 それでも作者はわからない。
 決めるのは読者だ。
 他者に運命をゆだねるなんて職業を選んだ自分をバカだと思う。
 バカはおたがいさまか、アミーゴ。

5 july(sat)
9
cosmic turtle moon

 今日のネアリカンは28回目のとっちゃんと8回目の太一さんである。
 8月15日からおこなわれる「アイヌモシリ1万年祭」にとっちゃんは新潟からフェリーで来る。
 太一さんは8月上旬から約1ヶ月かけて自転車で北海道をまわるそうである。(ちなみに同行者募集中。ただし女性のみ)
 次回の下書きをやってくれるミギルがくるのが20日。それまでネアリカは今日をふくめて4回しかない。本も書いているのでこれ以上日にちは増やせない。しかしバックは広大な面積が残っている。
 そこでオレは最新最速のネアリカマシーンの研究に没頭した。
 メカニズム、スピード、 デザインを高次元でバランスさせることは可能なのか?
 特殊合金を加工した4つのスムージング・ホールは航空力学から割り出し、毛糸を世界最速で走らせることを可能にした。高度にチューンされたグリップが張り手の指にフィットする姿は「ロード・オブ・ザ・リング」を彷彿させる。4本の毛糸を同時に貼るという奇跡、ただそれだけのためにこのマシーンは存在する。
 最後の難関はデザインだった。いかに機能的に優れていようと、美学の抜け落ちたマシーンはゴミ以下である。そこでオレは山猫の血統をもつ愛猫イル・クオーモの手形をとり、肉球のファンクションとコンストラクションをデザインに取り入れたのだ。
  頂点の戦いに挑むネアリカ・エボリューション、テクノロジーの極限を極めたマシーンを堂々と紹介しよう。名づけて、
 「猫の手借りちゃいマシーン」

6 july(sun)
10
cosmic turtle moon

 原宿の画廊で「ウィチョール族の世界」を見に行った。
 ネアリカとビーズのお面が20個以上展示されている。絢爛たる色づかいと緻密さは圧倒的だ。綿の刺繍糸をつかっているので、細かい、細かい。手作業のたいへんさをわかっているだけに、頭が下がるね。
 東京でこれだけまとまったネアリカを見られる機会はそうないので、ふたたびお勧めしておく。JR山手線・原宿駅から竹下通りを30メートルほどいった左手の小道をはいるとすぐである。
日時 7月1日(火)〜19日(土) 11:00〜19:00
場所 Gallaly HASEGAWA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-19-5 TEL:03-3423-8357
JR山手線・原宿駅(竹下口)より徒歩1分営団
地下鉄千代田線・明治神宮前駅より徒歩3分

 しかしオレのアルツハイマーもかなり進行度を増しているようだ。ウイチョル族を日本に招聘しているグループ「ディアブラ・ブランカ」のれいこさんといろいろ話した1分後、オレはこう訊いてしまった。
「失礼ですけど、ギャラリーの方ですか?」

 祖師ヶ谷大蔵にある三田村光土里宅で恒例の「痛飲マラソン」に参加する。
 メンバーは光土里ちゃん(アーティスト)、水野さん(日本サラリーマン協会理事)、素樹文生(作家)、縄文ちゃん(パーマカルチャー研究家)、加納さん(ヨガ行者)、ミッシェル(アーティスト)、 亜希子ちゃん(編集者)、はっしー(映像作家)、ゴルゴ屋良(役者)、ロンロン(プリマドンナ)のレギュラー人に加え、初参加は真帆さん(ギャラリー「BATHHOUSE」のディレクター)、フランコ(スエーデン人商社マン)、大谷さん(スーパーマーケット「メトロ」)、今井ノリ(アーティスト)である。
 オレのアルツハイマーで盛り上がっていたらしく、部屋にはいるとみんなが訊いてくる。
「私の名前おぼえてる?」
 バカにしないでよう(山口百恵風)、もう何回も会っておるしのう。ところでそちらのお嬢ちゃんは?」
 またもや 縄文ちゃんの名前を忘却してしもうた。今も光土里ちゃんに電話して大谷さんの名前を訊いたばかりだしのう。
 いっせいに誰かを指さすゲームで「まともじゃない人大賞」にも選ばれてしもうたわい。まるでべてるの家の「妄想幻覚大賞」じゃのう。光栄の至りじゃっはっは。
 ところで光土里さん、飯はまだかのう?

9 july(wed)
13
cosmic turtle moon

 古川日出男のデビュー作「13」(角川文庫)を読んだ。
 彼は4作目「アラビアの夜の種族」で、史上初の日本推理作家協会賞、日本SF大賞の2冠を制覇した。

 1968年に東京の北多摩に生まれた橋本響一は、26歳の時に神を映像に収めることに成功した。

 この魅力的なフレーズではじまる「13」は500ページを超す大作だ。
 主人公の響一は左眼が色弱で天才的な色彩能力を持つ。自分の才能を隠しつづけ、独学で抽象画を描いている。中学卒業するとザイールにいき、森の先住民族と暮らす。
 第二部は10年後のハリウッドへうつり、響一は「神の映像」を映画を通して全世界に発信しようとする。
 こうやってストーリーを追っても「13」の魅力は伝わらない。恐るべきは古川の描写力である。五感という感覚的なものを執拗なまでに言語化していく。とくに色彩に対するこだわりは偏執狂的ですらある。アフリカの密林、シャーマニズム、息苦しいほど濃密なリアリティーに引きずり込まれた。
 ミステリーファンは「ムダな描写」、「ストーリー性の欠如」と切り捨てるかも知れないが、ハマる人はドリアンのように病みつきになる。
 この作品のスケールは完全に大衆文学からはみだしており、新しい幻想文学の誕生を予感させた。

10 july(thu)
14
cosmic turtle moon

 精神科医関口先生の招待で、「貧乏神髄」(WAVE出版1400円)の著者川上卓也くんと飲んだ。
 川上くんの年収は、オレと同じ100万円である。
 スローライフといえばカッコイイが、貧乏を楽しむふたりの初顔合わせだ。オレは自分で巻くたばこ「ドラム」だが、彼は130円の「ゴールデンバット」をはさみで切り、キセルにつめて吸っている。
 川上くんは29歳、坊主頭に作務衣を着ている。どちらかというと無口でひょうひょうとした風情である。
 カメラマンをめざし、23歳のときコンピューター関係の仕事を辞めた。自分のために使える時間をふやすため、貧乏生活へと降りていく。
 東京をはなれ、茨城県の田舎町に一軒家を3万円で借り、徹底したシンプルライフをめざした。テレビをはじめよけいなものを捨て、残っている電化製品はパソコンと冷蔵庫と洗濯機くらいだ。
 月収8万円を稼ぐのにファーストフードの店でたこ焼きやラーメンをつくっている。時給は775円だそうだ。
 タンポポの葉やノビル(野草)を天ぷらにしたり、小さな庭の菜園でトウモロコシとジャガイモとトマトをつくり、納豆を手作りし、 土鍋で炊いたご飯と食べる。今日温泉で計ったら、体脂肪率が10%しかなかったという。これはイチローなみだが、「たんに貧しいだけです」と笑っていた。
 けっして貧乏自慢をしない謙虚さが素敵だな。
 たこ焼きをつくっているとき空腹のあまり幻覚を見た。
 室内にもかかわらず真っ白い雪が目の前に降り注いでいたという。
「パニックにならなかったの?」
「こんなおもしろいものをただで見られたんで、楽しんじゃいました」
 お若いの、なかなかやるのお。

11 july(fri)
15
cosmic turtle moon

 昨日はすばらしい海鮮料理をご馳走になったうえ、ホテルまで用意していただいた。さすが関口医院長。感謝感激である。
 昨日いっしょに飲んだ理(おさむ)くんとちかちゃんを川上くんの車にのせ(車もってんだぜ!)、日光にむかう。
 みんなネアリカに参加してくれるという。
 岡山県からきたちかちゃんは、無農薬で野菜をつくっている。もらった野菜を川上くんと分けたが、地這いのキュウリの美味いこと。
 理くんは東京農大で生物応用化学科で残留しない農薬を研究しているが、こんな悩みをかかえている。
 本来の自分であるAという人格と、社会的につくりあげたBという人格が分裂してしまうのだ。
 彼も病気にまでは至ってないが、多かれ少なかれ誰でもこのジレンマはかかえていると思う。人格Aを抹殺すると、社会から「大人になった」とほめられる。人格Bを抹殺すると、「あいつおかしい」と敬遠される。
 今までの社会は人格Aを受け入れてくれる「場」がなかったので、極端な犯罪として爆発してしまうような気がする。
 どちらかを抹殺するのではなく、AとBがともに育み合える「ゆるやかな場」が必要だ。
 4歳児を殺害した12歳の痛みを「批判」や「同情」だけで片づけちゃなにも学べない。
 オレたちも人格Aを殺害し、人格Bに罪を負わせているのだ。
 オレたちは今コンクリートの砂塵の舞う
 彼らと同じ荒野に立っている。

12 july(sat)
16
cosmic turtle moon

 今日のネアリカンは29回のとっちゃんと2連ちゃんのちかちゃんだ。
 無農薬で野菜をつくっているちかちゃんは、鴨川にある「ハーモニックライフセンター」で極上のたい肥を目の当たりにした。
 くみ取り便所にトイレットペーパーは落とさずよこのゴミ箱に捨てる。ひしゃくでくみ出し草を混ぜ、桶の中で3ヶ月間熟成させると、屎尿臭のまったくない「完熟たい肥」ができあがる。
 昔の畑には「肥だめ」があり、子どもが落ちたりして笑い話のネタになったもんだ。
 1960年代前半から農業の近代化がはじまり、牛や馬が耕耘機やトラクターに、人間や家畜のし尿たい肥が化学肥料に取って代わられる。
 60年代後半に作物の生産量を飛躍的に伸ばしたという「化学肥料神話」が近年になって崩壊した。化学肥料は、何百年にもわたって天然肥料によって蓄えられた土壌有機物を食い荒らしていただけの「ごくつぶし」にすぎなかったのである。
 江戸時代の長屋の共同便所には肥料の質によってランク付けがあり、相応の値段で買い取られたという。
 現代において天然肥料は「臭い」「汚い」「寄生虫」の3K悪のイメージいじーめに合い、処理施設に膨大な税金が投入される。家畜の糞尿汚水が大雨で流れ、ホタテなどの養殖に深刻な被害を与えたりしている。
 われわれは毎日トイレに金塊を落とし、札束をまるめて流しているのである。
 40億年(金に直すと40億円)の循環を断ち切った40年(たった40円)のあさはかさよ。
 3999999960円の赤字を取りもどすために、オレは高らかに予言する。
 よみがえれ「スカトロ農業」。

14 july(mon)
18
cosmic turtle moon

 今日は母ババチョフの命日である。
 早いもので10年がたつ。
 ガンが胃から脳、最後は肺に転移して死に至る様をずっと付き添ってながめていた。
 生と死のうつろい。
 母は文字通り命がけでオレに教えてくれたのだと思う。
 死をうとんずる者は、生をもうとんずる。
 死を見すえぬ者は、生をも見すえることができない。
 オレの記憶の箱庭には、たくさんの死者が眠っている。
 父方母方の祖父母、 母、父、友人、猫。
 彼らはほかほかした腐葉土となって、オレの人生を、作品を、豊かに花咲かせてくれる。
 理屈ではわかっていたつもりが、実感として受け入れるまでにたくさんの死者を看取らねばならなかった。

 今日の墓参りには妹夫婦と明日5歳の誕生日を迎える周二郎(オレは勝手にババチョフの生まれ変わりだと信じている)、
 数日前に自殺未遂をした友人がつきそってくれた。
 生きることは、絶え間なく失われていく一瞬を抱きしめ、笑顔で見送ることだ。
 母が23歳のとき、入院中のベッドで書いた詩を書き写しておこう。

 いつ
 どこでか
 ぜんぜん知らなかったんです
 ふと
 気がついたときには
 ポッカリと
 おおきな穴になっておりました
 どうにかしなければと思って
 あせればあせるほど
 どうしようもない
 その穴は
 どんどんおおきくなってくるんです
 いまはもう
 心の半分くらい
 うつろになってしまいました
 どうしたらいいのでせう
 わからないんです
 だれか
 たすけてください
 心を失っていくわたしを
 わたし自身の力では
 もう
 どうにもならないんです

16 july(wed)
20
cosmic turtle moon

「自由でいいねえ」
 と言われることがよくある。
「チャーシューめん食ってるくせにジェラすんじゃねえ」
 と言い返したいときもある。
 あれは小学校6年の父兄参観日だ。
 学級委員長の小川みっちゃんが言った。
「自由にもルールがあります。人をいじめる自由はありません」
 野球チームのエース湯沢としひさが言った。
「自由になったら、なにをしていいかわかりません」
 劣等生のオレが言った。
「自由なんて、ないものねだりじゃねえの」
 12歳のくせにひねくれているのはわかる。でもオレは頑固にこだわる。
 絶対の自由など存在しないのだ。
 人の感情や価値観は柱時計の振り子のように揺れ動く。
 振り子が4時という楽園を求めて到達すると、
 ないものねだり。
 8時という地獄にむかって走り出す。
 8時という地獄を求めて到達すると、
 ないものねだり。
 4時という楽園にむかって走り出す。
 進化の歴史も、オレたちのぶさいくな日常も、
 ないものねだり。
 もし神様とか呼ばれてるプログラマーがいたら、
 設定を変えてくれ。
 ないものねだり。

18 july(fri)
22
cosmic turtle moon

 今日のネアリカン、ちえちゃんが風邪で熱を出し、ミカリンが腰痛でこられなくなった。
 太一さんとふたりで終わるかなと不安だったが、さすが9回目のベテランである。太一さんは見事にふたり分の穴を埋めてくれた(ちなみに太一さんに心の穴を埋めてもらいたい人募集中とのこと)。
 ついに「変容のカムイ」が完成した。
 太一さんは最近絵に目覚め、「油絵でもはじめようかなあ。でも絵の具とか高いしなあ」と迷っていた。
 ところがね、あったのよ。
 太一さんの住むマンションのゴミ置き場をふとのぞくと、段ボール箱にはいった油絵セットが。
 「ネアリカにくるとシンクロがふえる」とささやかれてはいたが、こんな極端な例ははじめてだ。「欲せよ、さらば与えられん」ということなのか。
 うらやましいなと思いつつ、オレもキャンバスと使わない絵の具をプレゼントした。
 今日はこれから油絵をはじめる人へのレクチャーをしよう。
 最低限必要な道具。まずは絵の具。

 1 シルバーホワイト(白)
 2 アイボリーブラック(黒)
 3 イエローオーカー(ラクダ色)
 4 ヴァーミリオン(朱)

 あまりにたくさんの色がありすぎて迷っちゃうでしょ。古典の巨匠たちはたった4色の絵の具を混ぜ合わせ、無限の色彩をあみだしていった。まるでDNAの塩基配列のように。
 オレもフィレンツェの学校では、この4色をいかに混ぜ合わせるかの特訓を受けた。
 風景画を描く場合にはもう一色加わる。

 5 ウルトラマリン(青)

 でも印象派のように鮮やかな絵が描きたければ、もう何色かたす。

 6 カドミウムレッド(赤)
 7 カドミウムイエロー(黄)
 8 ヴィリジャン(緑)
 9 ローシェンナー(茶)
 10 アリザリンクリムゾン(ワインレッド)

 とにかくいろいろ混ぜ合わせて実験するとおもしろい。

  はじめ筆は100円ショップでいいかも。上達してタッチが気になったら、300〜1000円のタヌキの毛を買おう。

 3号
 5号
 7号
 10号

 各2本ずつ。暗い色用と明るい色用に使い分ける。(どちらかの組にテープを巻くとわかりやすい)あとバックなどを書く大筆は安いペンキブラシでいい。

  パレット

紙パレットが便利。金のないときオレはファッション雑誌などをパレットにしていた。つぎは油関係。

 1 ブラシクリーナー(筆洗い油)
 2 テレピン(うすめ油)
 3 ペインティングオイル(リンシード+ヴァニッシュ。絵の具を塗るときにつける油)

 1は石油でも代用できる。
 2は細い線やうすく下書きをするときに使う。
 3は、フィレンツェではリンシードオイルを天日干しし、ダマールヴァニッシュを半々で混ぜたものを使用していたが、最近は乾燥液のはいった「クイックドライ・ペインティングオイル」を使っている。

 ! 筆洗い缶
 2 パレットにつける油入れ

 1は買うと2000円くらいするが、アルミ缶でかんたんにつくれる。作り方は直接伝授しよう。2はプラスチック製の150円のでじゅうぶん。

 イーゼル

 野外スケッチ用の折り畳みイーゼルは3000円くらいからある。金がなかったり、1メートル以上の大作を書くときはイスや段ボール箱にブルーシートをかけて代用すべし。
 とりあえずここまでの道具は、切りつめれば1万円くらいでそろう。

 キャンバス

 刑務所で貼らせているだけあって、世界堂がダントツにやすい。33,3X24,2センチのF4キャンバスは500円くらい。53X43,5のF10キャンバスは1000円ちょっと。ネアリカで使っている194X130,3の120号は2万数千円だったと思う。
 君の絵が売れない限り、一筆おいた瞬間に高いキャンバスは商品価値を失う。
 いいじゃんそれで。
 少なくとも君は四角い楽園で「神」になれるんだから。
 なにも恐れることはない、
 汚して、汚して、汚しまくれ。
 聖なるものへとどくためには、階段を上っちゃいけない。
 降りていくんだ。
 あーでもない、こーでもないと、もがきながら、ぶさいくな日常を生きている。
 優等生のように振る舞えないから、
 あきらめる。
 逆にあきらめたからこそ見えてくる希望もある。
 これ以上どん底には落ちようがない。
 だったらどん底でしか見いだせない希望にかけてみよう。
 アーティストだけじゃない。
 ちっぽけな希望に人生をかけて、
 みんな生きている。

 やばいな。
 最近自分が落ち込んでいるせいか、なんでも突きつめて考えすぎる。
 このままでは後楽園の絶叫マシーンならぬ「説教マシーン」と化してしまう。

 おっと、おやじ画家の必需品もそろえなきゃ。

 ベレー帽とパイプ

20 july(sun)
24
cosmic turtle moon

 「瓢箪から駒」ということが化学界ではよくおこる。
  エイズの治療に使われていた抗ウイルス薬「ネルフィナビル」が、SARSウイルスの増殖を抑えることがわかった。ウイルスの増殖をほぼ100%抑えることができたというからすごい。
 今度はアルツハイマー病の治療薬が麻薬中毒症状に効くというのがわかった。
 ヘロインやコカインなどの中毒に陥ると、側坐(そくざ)核のドーパミンの濃度が高くなり、神経細胞が活性化し、快感となる。
 神経伝達物質アセチルコリンが側坐核でドーパミンの働きを抑制することから、アセチルコリン濃度を高めるアルツハイマー治療薬「ドネペジル」や「ガランタミン」という薬で実験した。 麻薬中毒にさせたマウスに投与すると、効果が現れたのである。ドネペジルの商品名は「アリセプト」といって、日本やアメリカでもっともポピュラーなアルツハイマー病治療薬だそうだ。
 われわれの脳は神経伝達物質という言語で会話する。このような「化学の結婚」を見ていると、神が仕掛けた罠じゃないかとさえ思えてくる。
 麦角から発見されたLSDは妊婦の分娩促進剤、
 覚醒剤はぜんそくの薬や「ヴィックス・インヘラー」などの鼻炎薬、
 コカインは目や歯の局所麻酔薬、
 ヘロインは子どもの夜泣き止めや阿片チンキをへて鎮痛剤、
 マリファナはスキタイ人の麻酔薬として使用されていた。
 神というかなんらかの意志が、人類を進化させるためにウイルスや病気を与え、人類は必死に知恵を絞る。しかし精神を置き去りにして技術のみを追求したテクノロジーは滅亡にもつながる。
 化学者や医学者はその先達であるシャーマンたちから700万年もの共存を支えてきた知恵を謙虚に学ぶべきである。

21 july(mon)
25
cosmic turtle moon

 今日のネアリカンは11回目の美和ちゃん、7回目のミッシェル、6回目のハルカちゃん、5回目の明子さんだ。
 明子さんはガンから奇跡の生還をはたし、その保険でふたたび大学にいくという。二十歳をすぎた息子がいるのに、生涯青春である。宗教学や文化人類学などを学びたいという。
 ミッシェルがまたすごい料理をつくってくれる。ベトナム風蒸し春巻き、鶏と椎茸のちまき、春雨の卵スープ、タピオカのココナッツミルク。最近はミッシェルの料理を目当てに来るネアリカンもいる。ハルカちゃんが言っていたが、
 美和ちゃんは京都から夜行バスに乗ってキャンバスをもってきた。今回のネアリカは美和ちゃんの下書きである。
 美和ちゃんのおじいさんが20日ほどまえに82歳で亡くなった。便箋に書いた手記が見つかり、北京へ出兵した記録があった。「度胸試しだ」と上官から言われ、捕虜を銃剣で刺し殺したこともあるという。おじいさんたちの世代の「経験値の重さ」に圧倒される。
「なんか、お香の匂いがしない?」タロットの占い師で霊感の強いハルカちゃんが言った。
「オレには匂わないなあ。でも死者がきていると線香の匂いがするという言い伝えがあるね」オレが言う。
「あたしも匂いするする。おじいちゃんがきてくれてんのならうれしいわ」美和ちゃんが言う。
「今日の記念撮影でなにか写るんじゃないの」明子さんが言う。
 立ち上がって匂いがするという場所にいくとかすかに感じた。しかも匂いが移動する。透明人間と追いかけっこをしているようだ。
 ここまでは本当にあった現象。
 オレは茶の間にいって、1センチだけ線香を折り火をつけた。
「あっ、また匂いがする」ハルカちゃんが言う。
「えー、ぜんぜんしないよ」オレは笑いをこらえる。
「するよ、するよ、やっぱりきてるんだよ」みんなが騒ぐ。
 あんまり死者をもてあそぶと罰が当たりそうなのでネタをばらした。
「おじいちゃん、ごめんなさい。でも線香つけるまえの匂いはほんとだよ」
「やっぱりいるんのよ。気配がするもの」
「孫の運動会を見にくるようなものね」
「ちゃんと連れて帰ってね。青春81切符で」

23 july(wed)
27
cosmic turtle moon

 雨が降りつづいている。
 明日ランディさん家族と河口湖でキャンプして、明後日富士山に登る。
 旅行はたくさんしているが、登山はまったくの素人である。
 ネットを検索して勉強することにした。
 まずは「富士登山をなめてはいけない」ということだ。
 何百人もで登山渋滞がおこるような山だから、ちょっとしたハイキングというイメージがあったが、すっとこどっこい。
 落石事故にあった親子は数メートル先の霧の中から降ってくる岩石を、子ども、妻、夫と縦に並んで、夫が「右!」「左!」と指示を出し、1時間以上もよけつづけたという。
 降りつづく雨で地盤がゆるんでいるし、溶岩でできた岩肌はすべりやすい。聖徳太子なんか羽の生えた馬で頂上までいっちゃったそうだが、オレたち凡人は自分の足だけが頼りだ。ジグザグ道の外側を、歩幅をせまく、すり足で、ゆっくり登るのがコツだという。
 なんといっても問題は高山病だ。
 オレはチベットや中国とパキスタンの国境クンジュラフ峠で死にそうな思いをしている。 富士山の気圧は2305メートルの5合目で平地の4分の3、3100メートルの8合目では3分の1になる。お菓子の袋がパンパンにふくれるという。
 車でいける5合目でいきなり登りださず、軽い運動をして体を慣らす。大切なのは呼吸である。腹式呼吸を意識して、大きく吐く。大きく吐けば、大きくすえる。ある山小屋では高山病の治療に風船を使っている。30分かけて3個の風船をふくらませる。これで息の吐き方を訓練するのだ。
 富士山は8世紀から10回も噴火していて、平安時代に書かれた更級日記にも火を噴くところが出てくる。1707年(宝永4年)の噴火が最後だが、2000年あたりから山頂直下15キロ付近で低周波地震もふえている。
 アイヌのシャーマン、アシリ・レラさんやウイチョル族のドン・パンチョもいっしょに登るので、噴火するかも。

24 july(thu)
28
cosmic turtle moon

 明け方4時半に日光を出たオレとタケちゃんは、7時に荻窪でミッシェルをのせ、河口湖にむかう。
 ランディさん一家と河口湖北岸にある戸沢キャンプ場にテントを張った。彼らはアウトドアのプロである。サーカスのようなテント、完璧なバーベキューセット、豊富な酒揃えをもってくる。サンマ、骨付きチキン、生食できるトウモロコシなどを、炭火で楽しんだ。
 昼食後、オレの敬愛する現代アーティストである久保田一竹(いっちく)の美術館にいった。キャンプ場からわずか数百メートルのご近所である。
 今年の4月に久保田一竹が86歳で亡くなったニュースを知り、深い悲しみを受けた。
 オレにとっては、北斎、手塚おさむにつぐ巨人である。ニューヨークに住んでいた84年頃に見た「一竹辻が花」は、ウオーホルやポロックよりも衝撃を受けた。
 着物というキャンバスにこれほど広大な宇宙を凝縮させられる人間がいたということに。
 久保田一竹は1917年東京に生まれ、20歳のときに室町時代の「辻が花染め」に魅せられる。やがて戦争がはじまり、シベリアでの抑留をへて生還する。
 いつ死んでもいいような極限状況を生きのびてきた「サバイバー」はこういう問いかけをする。
 なにが自分にとって、いちばん大切なものか?
 久保田一竹にとってそれは、「失われた美の復活」であった。
 戦後の極貧時代にも染色で食いつなぎ、40歳にしてやっと室町時代の「辻が花染め」を復活させる。
 しかもたんなる複製ではない。
 自分の血の中に潜むアジア、アフリカ、西洋までおも混沌の鍋に放り込んだボーダーレスの美意識を彼は追求した。
 一枚一枚の着物に染め出された絹のしぼりが、刻一刻と移り変わる光に煌めき変化していくのだ。
 この美術館は、20メートルを越す赤松の林をくぐり、インドの古城にあった扉をくぐり、一千年を超すひばの大黒柱16本を使ったピラミッド型の建築物が本殿になっている。沖縄の珊瑚からなる石灰石でできた回廊と階段も美しい。
 ランディさんは一竹が生涯にわたって世界中から収集したネックレス「蜻蛉玉(とんぼだま)ギャラリー」 に魅入っていた。一竹が60歳からはじめたスキューバであつめた貝のコレクションもはなれの廃屋にある。
 一竹のすごさは、「無国籍な美意識」である。
 ぐっとくるのだ。
「美意識ってカチカチのはずなのに、どうしようもなく開けた感じ」
 つまんないテーマパークで遊ぶより久保田一竹美術館にいってみて。
 本当の「わがまま」を学ぶために。

 富士の頂上が雲間から青灰色の顔を出す。
 明日オレがあの頂上にいるなんて信じられない。

25 july(fri)
day out of time

 いよいよ今日はマヤ暦の大晦日と正月のあいだにある「時間をはずした日」である。世界中でたくさんの平和イベントがあり、アイヌとメキシコのウイチョル族のシャーマンが山頂で祈りを捧げる。
 体を高度に慣らすため、早めに5合目へ車でむかった。
 登山口は人であふれ、昭和にワープしたようなおみやげ屋がにぎわっている。はとバスをはじめ全国からの登山ツアーでやってきた団体がレクチャーを受け、準備体操をしている。笑ってしまうのは、「がんばるぞー」「おー!」という最後のかけ声である。今日は登山マラソンというイベントがおこなわれているので短パン姿のランナー? もたくさんいる。山登りという孤高なイメージとこの世俗に満ちた風景のギャップがどうも居心地悪い。
 沢登りの名手であるタケちゃんが、吸引用の酸素缶と10倍の酸素を充填した水、ウイダーゼリーとミキハウスで子どもに配る風船を用意してくれる。風船は高山病の治療に使われていて、より多くの酸素を取り込む練習になる。
 お昼過ぎに30人近い参加者たちが到着した。
 主催のディアブラ・ブランカ、アイヌのアシリ・レラ(山道康子)さん、ウイチョル族のドン・パンチョと奥さん、ヘスス・カンデラリア、プエブロ族のウイリアム・トゥーフェザーなどだ。
 ウイチョルの村で家に泊めてくれたヘススと貴重な祭りに参加させてくれたシャーマンのドン・パンチョ、彼らとの出会いがなければネアリカをやってはいない。満面の笑顔で再会を喜び合った。
 もう8年ものつき合いになるレラさんは先月いっしょに沖縄いったし、来月も一万年祭で会う。「ひさしぶり」と抱き合いながら、「そうでもないね」と笑った。
 心配なのは57歳になるレラさんだ。数年前にガンの手術を受け、去年また小さな腫瘍が発見された。大きな体を弱ったひざで支え、頂上までいくのはたいへんなはずだ。オレはレラさんに折り畳みの杖をプレゼントした。
 午後1時に登りはじめた。
 山の民ウイチョル族は怒濤の快進撃だ。とくにヘススは儀式用のたきぎ20キロを背負い、登り6時間、下り3時間のコースをたった3時間で往復し、また5合目から自分の荷物を背負いわれわれを追い越していく。しかも素足にサンダルだ。
 あんのじょうレラさんは苦しそうだ。5分おきに休憩をとるが、このペースだと10時間以上かかってしまう。自分のペースで登るようにとミッシェルとタケちゃんを送り出し、レラさんに「双子の兄弟」と命名されたオレとランディさんは、最悪でもおんぶして姥捨て山に運んでやろうと決意した。
 プエブロ族のシャーマン、ウイリアムはガラガラヘビのベストを着たハンサムガイだ。3年ほどまえに自分に憑いている精霊からこう言われたという。「日本の北へ行け。そこにはおまえの魂の祖母がいる」。 レラさんをグランマザー(祖母)と呼び、熱心に付き添ってくれる。ウイリアムは本当にいいやつなのだが、レラさんの重いリュックと軽いバッグを差し出したとき、軽いバッグを選んだ。オレは自分のリュックを背中に背負い、レラさんの重いリュックを胸にかかえて登る。
 7合目(2700m)から霧雨が本格的な雨に変わり、薄絹の闇が覆い被さってくる。
 安物の雨具しかないレラさんはぐっしょりと濡れ、寒さで唇が紫色に染まる。
 土砂降りの雨のなか、山小屋で「休憩をとらせてください」とたのんでも、宿泊客のみと断られる。やっとたのみこんでレラさんの着替えだけさせてもらう。オレは自分用に用意したダウンの防寒下着と頭につけられるヘッドランプをレラさんにわたした。
 8合目(3020m)で選択を迫られる。
 レラさんは体力の限界にきていた。夜9時、もう8時間も登りつづけている。レラさんだけじゃない。ランディさんをはじめサポートメンバー6人も雨に体温を奪われ、酸素不足による動悸、息切れ、末梢神経の震え、微頭痛、心臓の圧迫感など、低体温症の兆候をみせている。予約した富士山ホテル(山小屋)まで健脚で2時間、このペースだと4時間はかかる。彼らに必要なのはちゃんとした雨具と夜道を照らすヘッドランプだ。
 オレは8合目に彼らを残し、救助を求めるためにレラさんの荷物もかかえて登った。孤独の2時間は永遠につづくようだ。
  頭上にある山小屋の明かりは、登れば登るほど遠ざかっていく。
  夜10時半頃山小屋にたどり着き、ディアブラ・ブランカの大塚晃くんに救援をたのむ。1時間ほどでもどってきた彼から事情を聞いた。レラさんたちは2つ下の山小屋白雲荘に無事泊まれたという。

26 july(sat)
1 magnetic moon

 深夜12時に凍える体でふとんにはいったが眠れない。どうせあと1時間後には起こされるのだから、リラックスすることだけを心がけた。となりの子どもが高山病にやられて、「吐きそう」とか「心臓が苦しい」ともだえている。
 ご来光を拝むために1時に起こされ、2時に出発する。前回のネアリカの下書きをやってくれた大介くんがいた。彼は夜の9時から登りはじめたという。
 暗闇のジグザグ道を登山渋滞がつづく。どうしてこんなにたくさんの人間がラッシュアワーのように富士山に登るのだ? あきれかえってため息が出る。極度の疲労のため脳内麻薬が出ていたのか、不思議な啓示が降ってくる。
 彼らは死の準備体操をしているのではないか?
 ヘッドランプの行列が人魂に見えてきた。
 山岳信仰のあった時代、「人が死ぬと魂はお山に帰る」 と言われていた。
 彼らは車でいける5合目で俗界との縁を切り、冥界へと魂を運ぶ。これは死。
 山頂のご来光は再生と受精。
 赤土の下山道は産道。
 ふたたび5合目の俗界へ生まれ落ちるのだ。
 聖域であるはずの山頂に到着してオレのロマンチックな想像は吹っ飛んだ。あふれかえる人、人、人。立ち並ぶ売店は1200円のラーメンを売り、煌々と明かりが灯る自販機には400円の缶コーヒーがオレをあざ笑う。死にそうな思いまでしてたどり着いた聖地がもっとも俗にまみれた失楽園だったなんて、たちの悪いギャグだぜ。
 あいかわらずの小雨でご来光なんて拝めない。ミッシェルとタケちゃんも調子悪そうだし、レラさんのことが心配なのですぐ下山した。
 白雲荘に着くと、レラさんの調子は回復していた。
「6合目あたりで晴れるから、そこでカムイノミの儀式をしましょ」
 雨は降りつづいているのに、レラさんに言われるとそんな気になってくるから不思議だ。 急に安心したら腹がへってきた。小屋の中にはいると休憩料1500円もとられるので、雨のなかで弁当を食った。レトルトの牛肉は脂肪が白く固まり、ごはんもカチカチだ。雨でごはんをほぐせば「雨茶漬け」か。
 あとから聞いた話だが、疲労と高山病でふらふらのミッシェルとタケちゃんは喜々として雨茶漬けを食うオレを見て先に下山する決心をしたという。「この人についていったら死んでしまう」と思ったらしい。
  レラさんの下山は快調だった。ランディさんやウイリアムなど上りと同じ5、6人のサポートメンバーがついている。下りもまた自分のリュックとレラさんのリュックをもったオレのほうが追いつけないくらいだ。
 6合目の道をはずれた斜面でカムイノミ(神様への祈り)がおこなわれた。
 レラさんに育てられたコウジくんが火をおこし、アイヌ語で祈りを捧げる。レラさんは手を空にさしむけ、雲を晴らす。視界を真っ白におおっていた霧が流れ出し、雲がうすまっていく。いきなり点のような青があらわれたかと思うと、雲の亀裂を押し広げていく。レラさんと出会ってからこういう奇跡はいくどとなく目撃しているが、富士山に登ってからはじめてみる青空だ。
「あたしが空を晴らしてるんじゃないのよ。誰も空に話しかけないから、話しかけてくれた人間に神様が喜んで口を開いてくれたの」
 だめだ、空の青さが目にしみて涙が止まらない。
「かみさまあ、ここにはへんなれんちゅうがあつまっているけど、みんなのいのりはとどいてますかあ」
 「風の子レラ」のモデルになったチュプばあちゃん(太陽の祖母)が言う。
 雲間から太陽があらわれ、みんなの顔を煌めかす。
 ずっとずっとつらい思いをして富士山に登ってよかった。
 誰よりも高い山頂に立ってご来光を拝むより、
 みんながいるふもとで太陽の光をうけとるほうが 気持ちいい。
 富士は「不死」ではない。
 アイヌ語の「フチ」、
 お祖母(ばあ)ちゃん。
 火の神様なのだ。

30 july(wed)
5 magnetic moon

 4日ぶりに外の空気を吸った。
  富士山から帰ってきて以来、3日間も玄関を出てないことに気づいた。
 苦しい登山の最中には、この家のベッドがパラダイスに思えたもんだ。
 帰ったとたん執筆に集中し、風呂にはいるのも忘れていた。
 そこで今日は「マイ温泉」であるメルモンテにいき、さっぱりしてきたわけだ。
 65キロのベスト体重まであと2キロの壁が何ヶ月も越えられなかったが、「富士山ダイエット」で見事クリア。
 痩せたい人は往復8時間の富士山を、ふたり分の荷物を背負い15時間かけて上り下りすればいい。
 猫はケガや病気のとき人気のない場所で療養するというが、オレの野生が引きこもれと命じたのかも知れない。
 ひどい筋肉痛で歩けないの。
 太股とふくらはぎが石膏で固められたように突っ張ってロボット・ウォーク。
 机で文章書くか、ベッドで昼寝するかしかないわけよ。
 食料も底をつき、温泉のあと「ライオン堂」から「リオンドール」とフランス語読みにしたスーパーマーケットにいった。
 スーパーはオレの「ウタキ」である。
 沖縄のユタ(シャーマン)が祈りを捧げる聖地と同じだ。
 なにも買わなくてもいい、物質文明の粋を集めたスーパーにくると癒される。
 きっと長い間ハングリー・アングリーな生活をしてきたオレは、ここにいると「もう飢え死ぬことはない」と安心するのだろう。
 どんな国でもまず市場にいってしまうし、ひとの家でも冷蔵庫を開けてしまう。
 オレに言われても説得力ないかも知れないが、
 フツーがいちばん。
 猫といっしょに昼寝できるのが、これほど幸せなんて。
 フツーの偉大さを知るために、
 フツーじゃない旅ばっかしてんのかな。
 学習能力なさすぎ。

31 july(thu)
6 magnetic moon

 原付免許の更新にいった。
 視力検査で「0,5」と言われたので聞きかえしたら、それが合格ラインだという。特別にそのうえまでやってもらったら「1,0」 だった。「むかしは2,0だったのに」とつぶやいたら、この機械ではそれ以上計れないという。オレは逆光で見づらい窓際にパソコンをおいて、山をながめながら書いている。おかげで視力はまだだいじょうぶなようだ。
 「懲役3年、罰金50万円、それでもあなたは飲みますか?」とかいうポスターがいたるところに貼られている。ビデオでは交通刑務所の行進風景、よそ見運転でバイカーをひき殺したドライバー、飲酒運転でひき逃げした人、19歳の息子を殺された母の作文で終わる。役者やナレーターを使わずに当事者たちのドキュメントをつくってほしかったな。死とむきあうのは胸を引き裂かれるような悲劇なのだから。
 高校と同じ机に座ったが、レクチャーは退屈だ。よくも12年間も毎日6時間机に座ることができたのか不思議だ。教科書を立て、マヤの本を読みながら素昆布を食べる。口に入れるとき先生と目があったが、なにも言われないのでちょっと淋しかった。
 バスを降り、田舎道を無人駅へと歩く。
 道ばたに干からびたミミズやトンボの死骸に「またもどっておいで」と3秒間だけカムイノミ(手をこすり合わせ、頭を下げる)をする。
 霜降りTシャツが黒く汗ばみ、木陰に腰をおろす。
 さまざまな階調が織りなす蝉時雨を浴びていると、「失われた夏たち」がよみがえってくる。
 オレたちはたくさんの夏を失い、今年もまた失うために夏を迎えいれる。
 無人駅で杖にもたれて昼寝するおばあちゃんは、どんな夢を見ているのだろう?

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「アイヌモシリ1万年祭」のインフォメーション。
★小説現代(講談社800円)8月号にべてるの家のレポート「白昼夢共和国」が載っています。
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