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生まれてはじめて「マイ箸」をつかった。
家の近所に最近オープンしたチェーン店のラーメン屋は混んでいた。カウンターに座り、味噌ラーメンを注文する。
いやあ、こんなに緊張するとは思わなかった。
座ってすぐとりだすというのも「わたしはマイ箸主義者ですよ」と主張してるようでわざとらしいなあ。圧倒的多数である割り箸主義者を軽蔑し、敵にまわす気だと思われたらたいへんだ。
客もウエイトレスも料理人も割り箸主義者だし、多勢に無勢、勝ち目はない。いっせいに襲いかかられマイ箸をボキボキに折られ、割り箸による「乳首つまみの刑」を受ける危険性もある。
ついにラーメンが運ばれてきた。
オレはジョン・ウェインのごとく電光石火で「箸ベルト」からマイ箸を抜き取り、くるくるっと空中に放り投げ、スチャッと指先で受け止めた。なんてことすると目立つし、だいいいちできわけないんで、おずおずとポケットからとりだした。
籠編みのケースにはいったインド製の木製箸だ。しかも頭にはシマウマちゃんがついている。インド雑貨屋の閉店セールで、1200円のを200円で買った。
安さとシマウマちゃんの可愛さにひかれたのだが、やはりシマウマちゃんは目立つ。
ウエイトレスが去りぎわに一瞥してかすかに笑った。
たしかにひげ面のドレッド男にシマウマちゃんが似合わないことなどわかっている。しかし自意識過剰に陥っていたオレには、彼女の微笑みのなかに「なあに、このひとー!」という軽蔑がふくまれているような気がした。
気分を取り直してラーメンをすする。
なだらかな四角に削られた先っちょは、なかなか引っかかりがいい。さすがインド製だけあって片方が5ミリほど短いが使いやすいぞ。
なんとなく視線を感じてとなりを見やると、ひとつ席をへだてた背広男があわてて目をそらした。彼の視線にトゲを感じた。「割り箸は間伐材のリサイクルだぞ」とか、「環境保護を見せびらかしてんじゃねえよ」いってるような気がした。
環境保護というよりも貧乏なんで、工夫している。トイレのタンクに河原で拾ってきた石をつめた2リットルのペットボトルを沈めているし、冷蔵庫には透明なビニールシートをたこ足に切ってつるしている。ガスも、スーパー活力鍋(圧力鍋)をつかっているので白米なら沸騰してから弱火1分で炊きあがる。以前は「他人の家にいって電気消しまくる人いるよねえ」とバカにしていたのに、おとといタケちゃんの家にいって電気消しまくる自分を発見した。
そのくせパソコンは自動スリープでつけっぱなし。コンピューターエンジニアのいとこが「いちいち終了させると調子が悪くなるし、スリープでも月300円くらいだよ」というアドバイスをくれたからだ。
だいたいにおいて物もちが異常にいい。
25年も前に買った吉田カバンの布製デイパックやLLビーンのショルダーバッグは今も健在だ。ひとつの割り箸を2年間もつかっていたり、今つかっている菜箸も6年前にアイヌモシリ1万年祭でもらったものを先が丸くなるとカッターで削っている。
だめだ、神経過敏になってラーメンの味がわかんなかった。
マイ箸をコップの水に浸し、ティッシュでぬぐってさやに収める。
オレのマイ箸修行は今日からはじまった。たとえ1メートルもあるマイ箸と巌流島で決闘しようとも、負けないように技を磨こう。
さすがに二刀流は目立ちすぎだし、いっそインド人のように手づかみで食うか。
その名も……
宮本無箸 。
ご迷惑をおかけしております。(工事現場の看板風)
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